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「入学式に制服が届かない」騒動から見る制服供給の脆弱性

 新年度早々、服が届かない、給食が開始できない(大阪府東大阪市、沖縄県粟国村・渡名喜村、毎日新聞・2022年4月8日)、給食費や教材単価が値上げする(朝日新聞・2022年4月10日)などのニュースが次々に舞い込んだ。その陰には、教育公務員の雇用形態や民間委託、コロナ禍における工場操業の不安定さ、ウクライナ情勢にも関連した食材の高騰など様々な背景が絡み合う。

 中でも、東京の衣料品販売「ムサシノ商店」での都立高校などの制服の納入が大幅に遅れた件については、大きく報道され、一部では「これを機に制服をやめては」の声も出ている。これについて社長が会見の中で、新型コロナによる生産工場への影響に加え、都立高校の男女別定員の緩和などで受注数が直前まで読めなかった影響を挙げたという(朝日新聞・2022年4月8日)。都立高校の男女別定員の問題は、昨年5月26日に毎日新聞が取り上げ、その見直しが図られた矢先だった。

 筆者としては、時代錯誤で人権侵害の可能性も高い男女別定員のシステムが改善されることは当然のことで、それに対応できない制服供給システムであったことが今回明らかになったのではないかというのが第一印象であった。

 ここで、制服を供給する販売店に関わる状況について、公正取引委員会が2017年に出した報告書「公立中学校における制服の取引実態に関する調査報告書」(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/nov/171129_files/171129_4houkokusho.pdf)をもとに、説明しよう。公立中学校を対象とした報告書ではあるが、公立高校についても同様の実態である可能性が高いからだ。

 制服の種類がブレザータイプであると、販売店をここと「指定」している割合が高くなる(男子65.7%、女子53.8%)。これはブレザータイプだとその学校独自のデザインであるために、取り扱っている販売店が限られてしまうからだ。一方で詰襟やセーラー服などで独自デザインではないところでは、販売店を「案内」するもののここと限定はしていない、という割合が高くなる(男子50.9%、女子39.8%)。販売店を案内していないところも詰襟だと34.3%、セーラー服だと38.6%となる。つまり、学校独自デザインの制服であると、販売店をここと限定せざるを得なくなるのである。

 販売店を学校が選定するのは、多く(89.2%)は「当校の生徒や保護者の利便性のため」とされており、立地条件が良く(56.0%)、信用が高く(35.6%)、過去の販売実績があるところ(31.9%)が選定の基準となっているようだ。しかし驚くべきことに、販売店と学校との間で制服の安定供給等に向けて契約書などを交わしていないところが90.4%に上り、今回のような大騒動になっても、販売店に対して契約違反を学校が追及できない状況であるところが多い。

 学校が案内する販売店の数は、1販売店であるのは約20%、2販売店は約27%、3販売店は約24%、4販売店以上は約29%ということで、学校により1店舗独占販売のところもあれば、数店舗以上が案内されるとところもあり、幅がある。こうした販売店については廃業や新規参入の他には定期的に見直しが行われることはほとんどなく(83.6%)、「定期的な見直しを行っている」と回答した学校でも実際に販売店などが変動した例は少ない。昔からの販売店が長くきちんとした契約書なしで学校の制服販売を請け負っている状況であることがうかがえる。

 以上のことから、公正取引委員会としては、「制服メーカー及び指定販売店等の選定においては,コンペ等の方法で選定する,参入希望を受け入れるなどにより指定販売店等を増やす等」を学校に対して求めている。

 公正取引委員会の提起はもっともで、公立中学校の場合、制服の安定供給に向けての土台は脆弱であることが見えてきた。それでも、公立中学校は就学校指定であるから制服の需要は読みやすく、採寸や注文も比較的早く始めることができる。しかし公立高校の場合は3月まで行われる入試の結果により入学者が決まり、当然採寸や注文も後ろ倒しとなる。高校の制服の方が今回のような大騒動になるリスクは常にあったわけで、コロナ禍や入試改革は、最後の一押しであったとも考えられる。今回の件に制服販売業者から同情の声が聞こえてくるのも、そうした事情だろう

 学校ごとに独自のデザインの制服を入学式までに用意するということは、制服の価格を押し上げるだけではなく、制服の安定供給についてもリスクを抱えている。そうした意味でも、制服のアイテムを減らす、独自デザインを減らす、自治体統一デザインの導入や既製品による登校もOKとする、などの手立てが必要ではないか。

(福嶋 尚子)

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