学校部活動が地域移行へ
積年の大問題、中学校における部活動が、ついに「地域移行」へと舵を切った。今月6日に出された「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」(スポーツ庁・運動部活動の地域移行に関する検討会議)はまずは2023年度から3年間かけて休日の学校部活動の地域移行を進めることを提言している。同会議委員でもある日本大学の末冨芳教授は、地域移行とは「地域スポーツクラブ等に移行する」「外部指導者が部活を指導する」「教員が『兼職兼業』として報酬を得て指導する」の3つのケースがありうると解説している
地域移行自体は、教員の働き方改革は勿論、子どもにとって多様なスポーツ経験の機会を確保する視点からも意義がある。移行先の多様な受け皿確保が難しい、保護者の費用負担が高額になる、教育委員会や学校の管理から離れた場合活動が過熱化して子どもの心身の負担が増す可能性、子どもの権利侵害が起こった場合の救済の仕組みや監視の仕組みの未整備など、課題は多くあるものの、方向性としては学校から部活動を切り離していくことは誤っていないと思う。上記提言は、会費問題の他、高校入試の問題や保険の問題にまで幅広く視点が及んでおり、今後具体的に議論を進めていくうえで非常に有意義なものである。
部活動が完全に地域移行すれば、学校の責任は軽くなるだろう。指導をしたい教員には兼業で学校外の部活動に関わる道が残されるが、指導をしたくない教員はその負担から解放されるはずだ(そうでなくては働き方改革としての部活動改革の意味がない)。
教員の自腹が部活動を支えている
ただし、ここで等閑視されているように思われる問題がある。それが、現在の学校部活動を支える教員の自腹問題だ。教員が部活動のために負っている負担として、長時間労働や休日のない練習、経験のない競技の指導、大会運営や審判の資格取得などが多くあげられているが、これに加えて、多くの費用負担をしている。競技を行うため生徒も持っているような個人持ち物品・Tシャツやユニフォームは顧問である教員も自ら購入していることが多いほか、審判資格取得のための講習費も自腹であり、学校に整っていない部専用の設備を購入する、など驚くような例があった。
ある学校事務職員が学校を異動した際、異動先のある部で、顧問が誇らしげに「ここにある備品はすべて私が購入しました」と言ったのを聞いて、非常に「たまげた」という。私自身も、「実はこの備品、私物でして……」という話を耳にしたことがある。その額、約30万円だった。さらに、かつては遠征のために多くの荷物と生徒をのせられるワンボックスカーを購入するというのも筆者は複数耳にしたことがある。
つまりここで何が言いたいかというと、現状の学校部活動は、公費で整えるべき部活動の物的条件までを顧問の教員が自腹で整備することで維持されてきた、ということである。現在「学校の運動部活動においては、部費等として一定の金額を集めているが、比較的低廉な額」(上記提言)となっているのも、公費だけではなく、教員の自腹によって成り立っている。(もちろん、この「低廉」というのも保護者が負担している部活動関連費用の「総体」を考えると異論がないわけではない。詳しくは『隠れ教育費』の第4章を参照のこと)
地域移行における物的条件整備の問題
上記提言は保護者の会費負担に関して第1の対応策として、「地域のスポーツ団体等の会費については、適正な運営のために必要な額を設定する必要があるが、保護者にとって大きな負担とならないよう、中学校等の生徒を対象とするスポーツ活動を行う団体等に対して、学校等の施設について低廉な額での利用を認めたり、送迎面で配慮したりするなど、地方公共団体や国からの支援を行う必要」を挙げる。いわば学校の施設設備を用いることで物品面の地域や保護者の費用負担を抑えられるのではという提言だ。
しかし、保護者の私費負担・教員の自腹の現状に見るように、学校の備品類がそもそも公費で十分に条件整備されていない。
特に部活動運営が地域移行するのであればなおさら、教員の自腹による条件整備は続けるべきではない(「教員」を「外部指導者」「地域スポーツクラブコーチ」などに置き換えても同じだ)。現在学校部活動で用いられている教員の私物は回収されるか、教員自身が家庭では使えないというならば、学校を運営する自治体や今後部活動を担う地域スポーツが買い取るべきだ。加えて、老朽化した備品を使い続けることで安全上の問題も懸念される。減価償却に合わせて必要な備品も更新されていく必要があるだろう。地域スポーツ団体が学校の施設を利用するために自治体が継続的に学校の物的条件整備をするか、地域スポーツ団体に何らかの助成をすることでそこで物的条件整備を整えるサポートをすることだ。
つまり、部活動を地域移行してもなお、子どもの多様なスポーツへの気軽なアクセスを保障するためには、教員や指導者の自腹なしで、かつ保護者の私費負担も低減しながら、公費で物的条件を整える必要がある。それは、場所そして運営母体が学校であっても地域スポーツであっても関係がない。
学校部活動が地域移行しても、「余暇・レクリエーションの権利」(子どもの権利条約31条)を保障する仕組みの確保を責務とする国・自治体は、その責任を逃れられるわけではない。これまで十分に果たしてこなかった人的・物的条件整備という役割を地域スポーツと保護者に丸投げするようなことになってはならない。
(チーフアナリスト 福嶋 尚子)
◼️ 該当文書
スポーツ庁・運動部活動の地域移行に関する検討会議「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」(2022年6月6日)
https://www.mext.go.jp/sports/content/20220606-spt_oripara01-000023182_02.pdf
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