【最新・第40回】補助教材費も無償にできるの?|保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。

【最速分析】「子供の学習費調査」における学校関係の費用の分析

 ついに、「令和3年度子供の学習費調査」の結果が文部科学省より公表された。各報道ではすでに「過去最高額」、「塾代」との指摘が相次ぎ、その背景として「コロナ禍の活動機会の減少」(教育新聞・文部科学省総合教育政策局調査企画課)「私立への進学をめざし、学習塾を重視する家庭が増えた」こと(日本経済新聞・森上展安所長(森上教育研究所))が説明されている。コロナ禍で学校活動が強制的に停止され、オンライン授業の整備もなかなかままならなかった公立学校に心もとなさを感じた層が、進学先として私立学校を考えたことで、補助教育費が急上昇したということだ。

 ここで「隠れ教育費」研究室として着目したいのは、ほとんど報道では指摘されない、学校教育費・学校給食費という学校関係の費用の最新の動向である。3年ぶりの学習費調査の結果は、学校関係の費用に対するコロナ禍の影響をどのように映し出しているのだろうか。

 なお、前回調査からの大きな調査方法の変更がある。以前は学校と保護者に対して調査票への回答を求めていたが、今回は保護者のみに回答を求めるようになったことである。このことにより、前回調査との比較を簡単に行うべきではないが、保護者が負担した費用の全貌を明らかにするという意味では、費用負担者である保護者自身が全て回答している今回の調査の方が、よりリアルな結果となっているのではないかと予想される(もちろん、これは回答者である保護者が全ての負担した費用を確実に回答に入れている、という前提ではあるが)。

 公立の小・中・高校の学校関係の費用について、前回調査(平成31年度)と比較する表を作成した。これを見れば一目瞭然であるが、確認してみよう。

(1) 減少した費用

 コロナ禍において学級閉鎖が相次いだことや欠席の増加により、給食の喫食数が減少した子は多かったはずである。そのことにより、小学校・中学校いずれも学校給食費が約9割(小0.89倍、中0.88倍)となっている。自治体によっては給食費無償化政策などが進んでいることも、その一因と言えるかもしれない。

 同様に、修学旅行は感染拡大状況や政府方針を見極めながら中止や予定変更の措置をとった学校が多く(日本修学旅行協会によれば、令和3年度において修学旅行を計画通り実施できた中学校は全国で6.6%に過ぎず、計画を変更して実施することとなったのが76.9%、中止することになったのは15.8%に上ったという(日本修学旅行協会「新型コロナウイルス感染症の影響に関する調査まとめ<速報版>」)。その結果、修学旅行費は、小学校では0.76倍、中学校では0.6倍、高校では0.55倍と急激な負担減となっている。多くの学校で積立金の返金が行われたのではないかと考えられる。

 活動休止の影響は、中学校の教科外活動費にもみられる。この内訳として主なものは部活動、学校行事、臨海学校・林間学校用の費用であるが、これらの活動も抑制的にならざるを得なかったことが教科外活動費が0.82倍になったという形で表れている。

 また、小中高ともに、学校納付金等が減少している。高校で減少額が大きい(22,555円減少で0.59倍)なのは、今回調査より、入学金等という費目が別でカウントされていることによるものと考えられる。その他に減少したものと言えば、学校と同様に活動が制約された児童会や生徒会、PTAや後援会が会費を減額したり徴収しなかったりしたことが影響したのではないか。

(2) 増加した費用

 活動が停滞したコロナ禍にもかかわらず、3年前に比べて急増したのが、図書・学用品・実習材料費だろう。詳しく数値を見ていくと、小学校で19,673円から24,286円(1.23倍)、中学校で25,413円から32,368円(1.27倍)、高校では41,258円から53,103円(1.29倍)で軒並み増えているのだ。この傾向がこれまでと異なるということは、10年ほど前の平成24年の学習費調査の結果と比較するとわかる。小学校では18,211円で平成31年の時点と比べても7年間で1.08倍の微増、中学校では25,942円だったので0.97倍と逆に微減、高校では36,539円だったので1.12倍の増加だったことからすると、たったの3年間でどの学校段階も急激に学用品費が増えたものと言える。この原因は、おそらくはICT関連機器——いわゆるパソコンやタブレットの端末(高校のみ)と、その周辺機器・アプリ類の購入と考えられる。ICTを活かした授業法への移行の際に、どれだけ既存の学用品を見直したのか、新たに必要な物品についても一人一つを家庭で購入するか、学校に公費で備え付けするかの検討が丁寧に行われたのかが問われる。

 もう一つ増加傾向にあるのが、通学関係費である。小学校では18,032円から20,460円というように1.13倍、中学校で37,666円から39,516円というように1.05倍、公立高校で79,432円から91,169円というように1.15倍で、こちらも学用品費ほどではないか、軒並み増加している。通学関係費とは、文字通りバスや電車などを利用した場合の交通費を含むが、その他に、通学用の物品として購入した自転車や、通学用の制服類が含まれている。こうした内訳を知って通学関係費の増加を見てみると、その内実として何の負担が高くなっているのか、ということが見えてくる。小学校では多くの場合交通費はかからないので、購入するランドセルが高額化している、あるいは昨今のランドセル見直しの動きの中でランドセルとは別の通学かばんへの買い替えが行われているとみるべきではないか。中学・高校では、感染を避けるために遠距離通学の生徒が自転車を購入した、交通費としての定期代の高騰なども考えられるが、より平均額を押し上げる要素としてはやはり制服類の高額化や必要アイテムの増加がありそうだ。

 金額としては大きくないが、これまた増加傾向にあるのが「その他」で、小学校は1.29倍、中学校は1.51倍、高校は1.63倍である。その他に含まれているものとしては「学校の徽章・バッジ、上ばき、卒業記念写真・アルバムの代金等」が挙げられている。昨今、いわゆる卒業アルバムの高額化が聞こえてくる。人数が少ない学校では特に顕著で、思い出のDVDや文集も全部ついて2万円などという例も聞く。そうした物品の値上げ状況を表しているのかもしれない。

 このように、一つ一つの費目をみてきたが、まとめると、高校では3年間で学校教育費が28,774円も増加し1.10倍になった。小学校では1,846円減の0.98倍、中学校では11,887円減の0.93倍であるが、喫食率の下がった学校給食や、予定通り実施できなかった修学旅行費の返金の影響が大きく、かえって学用品費や通学関係費は増えていることが分かった。

 さらに、今年(令和4年度)に入って進んだ円安や物価高騰の影響がここに次回調査で加わる。修学旅行等の活動も徐々に通常に戻りつつある。こう考えると、学校教育費・学校給食費はより負担の重いものとなっているはずだ。

 塾代の爆増の陰で隠れて今回もほとんど顧みられていない感があるが、特に公立学校の関係者としては、むしろこの増加した金額が家計を圧迫している可能性を考えるべきではないかと思う。経済的に困窮している家庭向けの就学援助や奨学給付金も、こうした金額の高騰には対応できていない。

◼️ 該当記事(結果の概要-令和3年度子供の学習費調査)

結果の概要-令和3年度子供の学習費調査:文部科学省 (mext.go.jp)

◼️ 関連記事

「新型コロナウイルス感染症の影響に関する調査まとめ<速報版>」|日本修学旅行協会 (jstb.or.jp)

・子供の学習費 公私立小、公私立中、私立高で過去最高額 | 教育新聞 (kyobun.co.jp)

・【コラム】物価上昇による「隠れ教育費」への影響|栁澤 靖明 | 「隠れ教育費」研究室 (kakure-edu-cost-lab.com)

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