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【コラム】最速・「令和5年度子供の学習費調査」における学校関係の費用の分析〔栁澤 靖明・福嶋 尚子〕


 「令和5年度子供の学習費調査」の結果が文部科学省より公表された。例によって、報道では「私立小中と公立中高は過去最高」などと報じているが、塾や習い事の費用を含んだ学習費総体の金額をあげているところが多い。「隠れ教育費」研究室として着目したいのは、学校教育費・学校給食費という学校関係の費用である。コロナ禍により停滞していた学校の活動がほとんど元に戻り、また急激な物価高が押し寄せたこの2年、学校関係の費用はどうなったのか。

 公立の小・中・高校の学校関係の費用について、前回調査(令和3年度)と比較する表を作成した。これを見れば一目瞭然であるが、確認してみよう。

(1)減少した費用

 令和3年度から令和5年度の大きな違いとして、自治体による給食費無償化政策が進んだことがある。他方で食材費高騰に伴い、逆に給食費を値上げしている自治体もあり、実際の保護者が支払っている給食費の平均額はどうなるかと考えていたが、結果的に小学校は605円減の0.98倍中学校は2,003円減の0.95倍となった。この多少の減少額の差は、中学校の方が小学校に比して給食費無償が行われている傾向にあること(小学校を対象に無償にしているのは10自治体に対し、中学校を対象に無償にしているのは20自治体)に要因がありそうだ。実際に給食費を支払っている場合にはこの平均額よりも高い金額を負担しているということになる。

 また中学校では学校納付金等がやや減少しているもののほぼ横ばいだ。前回調査では小中高全部で学校納付金が減少していたが、これは「活動が制約された児童会や生徒会、PTAや後援会が会費を減額したり徴収しなかったりしたことが影響したのでは」と分析した。こうした活動が戻ってきたことから、小学校と高校ではコロナ禍以前の状況に近づきつつあるということかもしれない。

 最後に、高校の授業料が6,926円減で0.87倍と無視できない減額となっている。公立高校の授業料は就学支援金によって補助をされる家庭が、年収約910万円未満という所得制限がかけられていることにより、この所得制限を超える家庭が多いと授業料を支払った平均額が上がり、就学支援金により補助をされている家庭が増えると平均額が下がるという構造になっている。そのため、ここで出ている45,194円はあくまで授業料を負担した家庭としていない家庭の平均を取った額であり、実際に年収が所得制限を超えてしまい授業料を払っている家庭は月額おおむね9,900円で年間約118,800円を負担している、ということになる。また、大阪府や東京都で行われている所得制限を超えた家庭への府や都による独自の授業料無償化政策も、この平均額の減少に寄与している可能性もある。

(2)増加した費用

 金額は小さいものの高い増加率を示しているのは、入学金等である。小学校で6.61倍中学校で2.32倍高校で1.12倍である。基本的に公立小・中学校では入学金自体は徴収していないはずなので、この数字に直接影響しているのは入学時に徴収されたその他の費用(文部科学省の定義では「施設整備費等」とされているため、受益者負担のグレーゾーンである)や、併願等で受験し実際には入学しなかった学校の検定料などではないかと思われる。また、高校については県により入学金自体の値上げをしたところもあり得るだろう。

 入学金ほどではないが、その他も軒並み増額している。修学旅行に安心して行くことができるようになってきたこと、またこれも物価高の影響が修学旅行費等の増額に繋がり(小1.16倍中1.53倍高校1.86倍)、全国大会なども復活し活動が活発化してきた部活動が教科外活動費を押し上げている(小1.37倍中1.13倍高1.25倍)。通学関係費の値上がり(小1.13倍中1.11倍高1.07倍)は、高校についてはバスや電車などの定期代の値上げの影響もあるかもしれないが、小学校ではランドセル、中学校は制服の高額化が主要因だろう。程度は差があるもの、「その他」の値上がり傾向(小1.35倍、中1.01倍、高1.35倍)は、卒業アルバムあるいはうち履きの値上がりを反映していると見られる。

 個人的に驚きの増額となっていたのは、小学校の図書・学用品・実習材料費だ。詳しく数値を見ていくと、24,286円から32,487円(1.34倍)であり、中学校の1.06倍高校での1.17倍と比べてもかなりの増額だ。平成31年度調査では小学校の当該費用は19,673円だったので、5年間で1.65倍にもなったことになる(中1.35倍、高1.51倍も十分無視できない数字だが)。この原因は、前回調査と同様、おそらくはICT関連だろう。GIGAスクール構想により小学校と中学校にはパソコンやタブレットの端末が準備されたが、タッチペンやキーボード、ケースなどの周辺機器や、そうした端末で用いるデジタルドリルなどのアプリやソフト類の購入などにかかる費用は保護者負担となっているものがある。また、こうしたICTを活かした授業法への移行の際に、既存の紙の教材や学用品を見直さず、そのまま保護者に購入を求め続けると、この図書・学用品・実習材料費は決して減り得ない。 

 このように、一つ一つの費目をみてきたが、まとめると、小学校では前回調査より学校教育費が15,779円増の1.24倍、中学校では18,398増の1.14倍、高校では42,191円も増加し1.14倍となり、いずれも過去最高額だ。前回調査の分析時に危惧した物価高騰や活動復活の影響が想像以上の結果となって、表れている。

(3)これからの2年間でなにをするべきか

 「子供の学習費調査・過去最高」「修学旅行費増加」──などといっているだけでは家庭の教育費負担は減らない。まず、当事者が傍観者から抜け出す必要があるだろう「隠れ教育費」という言葉がわれわれ研究室発信以外でも使われるようなってきた。なかには定義が外れている使用もあるし、その定義に文句をいっている声もある。しかし、みるべき部分はそこではなく、家庭の教育費負担そのものが正しく発信され、正しく議論されているのかどうかである。金額の大小だけではなく、その徴収や活動そのものを見直すような議論や報道は少ない。「修学旅行費無償!」そんな報道は輝かしいが、その裏でそれに参加するための「隠れ教育費」は存在してはいないか。みえにくい家庭の教育費負担がのし掛かっていないのだろうか。本当に子どもはその修学旅行を望んでいるのだろうか。「タダだから文句言うな」というように、ノーといえる権利を侵害していないだろうか。

 うえで指摘した図書・学用品・実習材料費にかかる費用も同じである。政策として端末が無料配付されたが、それだけでは授業ができない。それを使いこなすためにはハードばかりではなくソフトも必要になる。学校は、「使わなければならないし、これだけで使えないから家庭の負担に頼ろう」というような安易な行動をとっていないだろうか。学校の特性として、新規参入教材等は家庭の負担になりやすい(通知表は公費で準備していたのにデジタル化したことで、印刷した紙をフォルダに入れることになり、私費でフォルダを準備するようになったなど)。言葉を変えれば「いままでどおり」を踏襲しやすいともいえる。デジタル端末が入ったのにアナログドリルも手放さない。初期は併用もしかたないかもしれないが、もうGIGAスクール第2期であり、双方の価値を振り返り、今後の方針を検討していく時期である。

 これからの2年間でなにをするべきか──それは、上がった下がったではなく当事者が協働した振り返り作業と今後の検討である。業界用語でいうなら「学校財務マネジメント」に本気で取り組む必要がある。修学旅行の行先や行程は妥当なのか。そもそも費用負担からそれを検討しているか。子どもにどんな力をつけさせたいのか、どんな体験をさせたいのか──保護者や教職員も交えた検討が必要だろう。その結果、積み上がるものこそが真の修学旅行の予算ではないだろうか。また、教材も同様である。小学校の図書学用品等費の伸びが著しかったが、全教科を担当する小学校の教員はとくに忙しい。時間がないなかでもマネジメントをリードしていく管理職や事務職員は工夫を重ねていくことが求められる。

 傍観者から当事者へ意識の醸成がいま求められるだろう。

(チーフディレクター 栁澤 靖明)

(チーフアナリスト 福嶋 尚子)

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