1月31日、授業用タブレットの私費負担での購入を求める滋賀県教育委員会に対して、これに反対するグループが記者会見を行った。反対署名は会見時点で10,215人に達しているという。
滋賀県立高校で保護者に購入を求めている授業用タブレットは5~10万円程度になるということだが、この会見について報じた京都新聞の記事のコメント欄には、「義務教育ではないので私費負担は仕方がない」「給付金があるのだから払えるでしょ」「授業でフルで使ってるよ」というような声が渦巻いた。
買わせているのだから使用するのは当然として、このタブレット私費負担の何が問題なのかを指摘しておきたい。
① 学校教育費が跳ね上がる
平成30年度に実施された文部科学省による「子供の学習費調査」の結果、公立高校に通わせるための学校教育費は280,487円となっている。このうち、図書・学用品・実習材料費等は41,258円だ。これをはるかに超える金額、5~10万円がここに加わるということだ。学用品総額は10~15万円程度となり、学校教育費は33~38万円程度で、平成30年度の金額の1.17~1.35倍になる。タブレットを大事に3年間使えたとして、タッチペンなどの付属品をなくしたり壊したりした場合は買い替えが必要となる(関連記事の京都府の場合、タッチペンは8,690円、キーボード付きケースは9,790円)。
この点、非課税世帯に対する奨学給付金制度があるが、その金額は国立・公立学校の場合、第一子だと11万100円(国の補助基準)となっており、とてもこれで賄えるものではないことが分かる。
② 入学時に費用負担が集中する
平成30年度の時点で公立高校で最も費用負担が重いのは「通学関係費」79,432円である。これは文字通りの通学費、すなわち公共交通機関の利用料のほか、制服等の通学に必要なものが入っており、1年生から3年生までの平均額となっている。しかしながら、制服等は入学前に購入するため、実は入学前に費用負担が集中するのだ。
同じことがタブレットやその付属品にも起こる。入学時に必要となる費用は約20万円程度で現時点でも多額だが、そこにタブレット類が付け加わるということだ。
※その意味で、①で述べた金額も実際は1年生に出費が偏る。
③ オンライン授業における利便性が担保されない
実際にタブレットを購入して持ち寄ったとしても、推奨スペックを満たしているがメーカーによって種類の異なるタブレットだとしたら、オンライン授業を実施するうえでの利便性は相当低くなるだろう。家で使っているタブレットやパソコンを持ってくる事例もあるだろうし、その場合授業で使うアプリケーションをインストールすることから始めねばならない。そして、教員のほとんどはこうした事柄について研修を受けていないため対応は混乱を極める。
コロナ禍で急加速したとはいえ、本来オンライン授業やICTを活用した授業を行うに当たっては、ハード(端末やWi-Fi環境)を整えるだけではなくしっかりソフト面(指導する教師の専門性)も整える必要がある。端末を保護者の私費負担とすることは、保護者に負担をかけているのみならず、「ハードだけひとまずできる範囲で用意したのであとはよろしく」という形で教員に負担をかける側面もある。
以上のような問題点を考えると、入学時に多額の私費負担を保護者に背負わせる動向は、保護者や教員にとって負担になるばかりか、高校生に入学を躊躇わせるに十分な要素になりかねない。あるいは、入学できても、アルバイトをして学費を稼がねばならない高校生が出る可能性もある。そして、そうした状況は、たまたま住んでいる自治体によって大きく変わってしまう。タブレットを重要視するならば、なおさら、私費負担ではなく公費負担で保障をしていくことが求められる。国もそうした方針を示していってほしい。
(福嶋 尚子)
〇 該当記事
「滋賀県立高、授業用タブレット「自費購入」保護者や教職員ら反発、撤回訴え」京都新聞・2022年2月1日
〇 関連記事
「タブレット自費購入「怒りしかない」 公立高校でなぜ保護者負担?」京都新聞・2021年4月18日
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