【最新・第39回】通知表も保護者負担になってるの?|保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。

制服のサブスク導入で制服問題は解決するか

埼玉県公立高校での制服改革

 埼玉県の公立高校で制服改革を進める事例が多く報道されている。2015年4月30日の文部科学省の通達「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」(https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/04/1357468.htm)を受けて、性別で異なる服装の見直しが進められてきたことがその成果の一つである(ただし、女子生徒がスラックスを選べる、という点にとどまっているようである)。

 さらに注目すべきは、さいたま市立大宮北校アパレルブランドUNIQLOの制服を導入することで保護者の経済的負担の軽減を図っている。さらに今月、県立北本高校において、制服のサブスクリプションサービス(定額の料金を支払うことで制服を貸し出す仕組み。いわゆる「サブスク」)を導入することが報じられた。こちらも保護者の負担軽減を企図しているという。来年度の新入生は、制服を購入するか、購入費用よりは安価なサブスクを選択するか選べるようになる。

 学校制服としては画期的な仕組みであると思う。これまでも市民団体保護者会PTAなどが学校制服のリユース販売を行ったり、リユース商品を扱うお店もかなり増えてきた。また、知り合い同士で譲り合ったりした人も多くいるだろう。しかし、今回のサブスクやユニクロ制服に関しては、学校自身が主体となって制服の経済的負担減を図ろうとしている点が嬉しい。これにより「助かる」と思う保護者もいるだろうと思う。

 しかし、こうした「安価」な制服システムが、最近叫ばれている制服問題をすべて解決するかというと慎重になる必要があるだろう。今回は、サブスクが解決する制服問題と、サブスクが解決できない制服問題を整理し、さらに制服のサブスクを考える上で配慮すべき点を指摘しておきたい。

サブスクが解決する制服問題

 ① 制服代の経済的負担が軽くなること自体、喜ばしい。公立高校の制服は、1着で4~6万、などと言われており、ここにその他の指定品類を加えていくと10万を超えてくることも多い。「服をレンタル?ほかの人が着ていたものなんて気分が良くない」と思う人もいるかもしれないが、近年は洋服のサブスクも増えてきている。きちんとクリーニングされた服であれば、他人が袖を通したものでも抵抗なく着る雰囲気は高まってきていると考えられる。

 ② 定額を支払っていれば、身長が伸びたり体型が変わったりしても、その時の体格に合ったものに即座に替えることができる。こうしたサイズアウトの問題のほか、子どもがやんちゃをして制服を破ってしまう問題や汚してしまったときの問題も購入時に比べて対応がしやすくなる。

 ③ リユース品やお下がりのものに比べてサブスクの貸借品の方が衛生面ではよいものが準備されていると期待できる。また、制服を購入した生徒と同じ空間にいても、見た目での購入品と貸借品との違いは分かりにくいと想像できる。使用感が低いものの方が、生徒としても保護者としても安心して使用できるのではないか。

 以上のことからも、制服のサブスクを運用していくうえで配慮すべき点が分かる。

  • 定額料金を低く設定する。当然のことだが、購入するよりも安くなくては意味がないので、月々の料金は購入費用を12で割った金額よりも低くなくてはならない。
  • 貸借品の交換は気軽にできるようにする。破れや汚損などについても、違約金などは課さず、ごく少ない金額のオプションで対応できるとありがたい。特に、サイズアウトによる交換は、生徒が成長した証である。無償で対応してほしい。
  • 貸借品は衛生的で使用感がないように管理する。返却時には補修やクリーニングを施して次の利用者に提供する。当たり前だが、貸借品であるとあからさまにわかるようなものは好ましくない。
  • そもそも学校が指定する物品の数はなるべく少なめにし、サブスクすべき物品数をすくなくする。これにより定額料金も低く抑えられる。

 このような配慮事項が適切に踏まえられていれば、ブスクは、隠れ教育費の主力で制服問題を解決するための有力な方策となるかもしれない。

サブスクが解決できない問題

 たとえサブスクでの制服の入手が認められたとしても、「制服を着なくてはいけない」ということ自体は変わらない(むしろ、入手方法が複数になったことで、制服絶対主義が強まる恐れもある)。

 記事によれば、サブスクを実施する企業は「価値の多様化やSDGsに向けた制服の在り方を重視」しており、性的少数者への配慮や廃棄する制服の再利用など工夫を凝らしているという。しかし、これは基本的に制服ありきの話である。感覚過敏である子や、制服姿に対する抵抗感のある子への配慮はもちろん、暑い日に薄着で登校し、寒い日は重ね着をして登校する、といったことがすべての生徒に当たり前に保障される必要がある。これこそが価値の多様化やSDGsに即した仕組みではないだろうか。ただしこれらは、制服類の入手方法の問題(すなわち企業側の問題)ではなく、制服指導上の問題であり、すなわち学校が取り組むべき問題だ

 また、サブスクでも経済的に厳しい家庭のためにも、制服でなくてもよい選択や、リユース品購入の選択肢を普遍化していくことも必要だ。

 サブスク導入で満足せずに、より「新生北本高校」(同校校長のコメント。該当記事より)にふさわしい、生徒の権利の充足を目指した学校づくりを期待したい。

(福嶋 尚子)

◼️ 該当記事

「制服代の負担大きい…埼玉・北本高校、制服を定額で貸し出し LGBTQにも対応、保護者アンケートで導入」埼玉新聞・2022年2月5日

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